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東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)200号 判決 1988年4月28日

原告

ダンロツプ・ホールデイングズ・リミテツド

被告

特許庁長官

主文

特許庁が、昭和45年審判第1595号事件について、昭和53年7月14日にした審決を取り消す。

本訴の訴訟及び原告補助参加人の参加によつて生じた費用は、被告の負担とし、被告補助参加人らの参加によつて生じた費用は、同参加人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、主文第一項同旨並びに「訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二請求の原因

原告及び原告補助参加人(以下「原告ら」という。)訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

一  特許庁における手続の経緯

原告は、1965年(昭和40年)2月10日(以下「優先日」という。)イギリス国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和41年2月10日、名称を「ゴルフボール」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願したところ、昭和44年9月29日拒絶査定を受けたので、昭和45年2月25日これを不服として審判の請求をし、昭和45年審判第1595号事件として審理され、昭和49年7月15日出願公告(特許出願公告昭和49―27093号)されたが、被告補助参加人ブリヂストンタイヤ株式会社から特許異議の申立てがなされ、昭和53年7月14日右異議の申立ては理由がある旨の決定とともに、「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決(以下「本件審決」)という。)があり、その謄本は、同年7月31日原告に送達された(出訴期間として3か月附加)。

二  本願発明の要旨

核と被覆よりなるゴルフボールであつて、この被覆がエチレンと3~8個の炭素原子を有する少なくとも一種の不飽和モノカルボン酸との共重合体を含む組成物から成形されており、この共重合体が熱変化性金属交さ結合を有し、かつ4~30重量%の前記モノカルボン酸を含有することを特徴とするゴルフボール。

三  本件審決理由の要点

本願発明の要旨は、前項記載のとおり(明細書の特許請求の範囲の記載と同じ。)と認められるところ、特許異議申立人ブリヂストンタイヤ株式会社が引証した特許出願公告昭39―6810号公報(以下「第一引用例」という。)、昭和39年12月1日発行の雑誌(プラスチツクス」第15巻第12号第6頁ないし第13頁(以下「第二引用例」という。)、特許出願公告昭36―18733号公報(以下「第三引用例」という)及び昭和40年1月1日発行の雑誌「ポリエチレン」1965年1月号第96頁ないし第99頁(以下「第四引用例」という。)によると、第一引用例には、エチレンなどのα―オレフインとアクリル酸、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸との共重合体をイオン性金属化合物で交叉結合させたイオン性交叉結合重合体の製造方法、物性及び用途について記載されており、該共重合体の不飽和カルボン酸の量は0.2モル%ないし25モル%、好ましくは1モル%ないし10モル%であり、イオン性交叉結合体は交叉結合した重合体の固体状態における望ましい性質と交叉結合しない重合体のもつ溶融流動性を合わせもつ重合体であり、弾力性が優れ、曲げ回復性があり、硬さ及び剛性が大であり、耐衝撃性に優れ、非常に強靱な性質を有し、また、他物質に対する接着性がよいものであることなどが示されており、第二引用例及び第四引用例には、米国のデユポン社が開発し、サーリンAという商品名で市販しているアイオノマーの物性及び用途について記載されており、サーリンAはエチレンを主成分とする共重体の長鎖間がイオン力により結合されており、イオン結合にあずかるアニオンは主鎖からぶら下つているカルボキシル基であり、カチオンはナトリウムなどの金属であること、イオン結合により透明度、強度、硬度、剛度、弾性及び接着性が高くなり、プラスチツクの中でも最も強靱な部類に属するポリマー構造が作り出されること、また、軟化温度が低くVicat軟化温度は約70℃ぐらいであることなどが示され、更に、第三引用例には、交叉結合されたポリエチレンとブチルゴムの混合物からなるゴルフボールの外皮が記載されている。

そこで、これら引用例の記載と本願発明とを比較検討するに、本願発明においてゴルフボールの被覆として使用している熱変化性金属交叉結合を有し、かつ、4重量%ないし30重量%の不飽和モノカルボン酸を含有するエチレンと3個ないし8個の炭素原子を有する少なくとも一種の不飽和モノカルボン酸との共重合体は、第一引用例、第二引用例及び第四引用例に記載されている米国デユポン社により開発されサーリンAなる商品名で市販されているアイオノマーと同じものであると認められる。ところで、これら引用例には、アイオノマーの用途としてゴルフボールの外皮については記載されていない。しかしながら、第三引用例はその一例であるが、ゴルフボールの外皮は重合体の用途としては周知のものであり、また、第一引用例、第二引用例及び第四引用例には、ゴルフボールの外皮に要求される性質のすべてではないにしても、アイオノマーが軟化点が低く、弾性、衝撃強度及び硬度が大で非常に強靱な性質を有し、また、接着性がよいものであることなどゴルフボールの外皮として好ましい性質が優れたものであることが示されているので、アイオノマーがゴルフボールの外皮になることは当業者の容易に予測し得るところであると認められる。しかも、本願発明は、市販の重合体そのものをゴルフボールの外皮に使用したという程度のものにすぎず、アイオノマーをもつてゴルフボールの外皮を構成するのに格別の創意工夫は認めらず、また、アイオノマーをもつてゴルフボールの外皮を構成したことによる効果も、重合体そのものが有する性質によつてもたらされる効果以上の格別顕著なものであるとは認められない。

以上のとおりであるから、本願発明は第一引用例ないし第四引用例の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると認められ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

四  本件審決を取り消すべき事由

第一引用例ないし第四引用例に本件審決認定のとおりの記載があること(第二引用例及び第四引用例記載のサーリンAが市販されているとの点を除く。)は認めるが、本件審決は、本願発明の技術的課題ないし目的を看過し、第一引用例ないし第四引用例に記載の事項についての認定判断を誤つた結果、本願発明と第一引用例、第二引用例及び第四引用例記載の事項との対比においてその相違点を見誤つたほか、相違点並びに本願発明の作用効果についての認定判断を誤り、ひいて、本願発明を第一引用例ないし第四引用例の記載に基づき容易に発明し得るとの誤つた結論を導いたものであり、違法として取り消されるべきである。すなわち、

1  第一引用例に記載の事項についての認定の誤り

本件審決は、第一引用例記載のイオン性交叉結合重合体は、「交叉結合した重合体の固体状態における望ましい性質と交叉結合しない重合体のもつ溶融流動性を合わせもつ」と認定しているところ、第一引用例にそのような記載があることは認めるが、その有する意味は、本件審決の認定とは異なるものである。なぜならば、第一引用例記載の交叉結合重合体は、第一引用例記載の発明の特許出願の出願日当時の溶融流動性を全くもたない交叉結合重合体と比較して溶融流動性があるというにすぎず、優先日当時、当業者がゴルフボールの外皮材に対して不可欠な性状として考えていた「低温流動性」があるということでは決してない。すなわち、第一引用例記載の発明の特許出願前の交叉結合重合体は、第一引用例第1頁左欄下から第9行ないし第5行に記載のとおり「交叉結合した重合体はその形を保持し、その重合体が安定に存在するすべての温度において、変形した場合にももとの形に戻り、永久的な変形を行うことはできない。一度交叉結合を生じた重合体は機械加工による以外もはや加工することはできない」ものであつて、溶融流動性は全くなかつたものであるところ、第一引用例の交叉結合重合体は、このような溶融流動性を全くもたない交叉結合重合体と比較して、溶融流動性があるということを述べているにすぎない。

更に、本件審決は、第一引用例記載のイオン交叉結合共重合体の製造方法、物性及び用途についての認定を誤つたもので、第一引用例に記載された交叉結合重合体の溶融流動性は、ゴルフボールの外皮材としては不適当と判断されるものである。すなわち、第一引用例記載の交叉結合重合体の「溶融流動性」は、その第5頁左欄第1行ないし第2行に記載してあるように、その溶融流動性を判断する溶融係数はエイ・エス・テイー・エム・デイー・1238(ASTM D1238)(メルト・フロー・インデツクス)であり、その数値は別紙第一のとおり0.01ないし0.98であつて、低温流動性を甚しく欠くものである。現に第三引用例第2頁右欄第7行からの記載によれば、ゴルフボールの外皮材として単独で成型可能なポリエチレンの分子量の限界値として分子量24,000が示されているが、このポリエチレンのメルト・フロー・インデツクスは20であり、このことからみても右のメルト・フロー・インデツクス0.01ないし0.98という低い値は、ゴルフボールとして不適切であることを示す記載にほかならない。なお、メルト・フロー・インデツクスは、ポリエチレンをはじめとする同系列のプラスチツクの流動性を示すものとして当時周知であつた。(甲第13号証の1ないし3参照)また、第一引用例第6頁右欄下から第6行ないし第7頁左欄に記載されているように、温度250℃で5000グラムの荷重という条件下において交叉結合重合体は流動するのである。しかし、優先日当時において、当業者は、ゴルフボール外皮材を核上に成形する際、約100℃を越えると核を劣化させることになるため、常識として、100℃前後の低温で成形しなければならないこと、すなわち、そのような低温流動性を有するものでなければ、ゴルフボールの外皮材として選び得ないものと考えていたのである。以上のとおり、第一引用例記載のイオン性交叉結合重合体は、ゴルフボールの外皮材に必須の条件である低温流動性がなく、流動性を示す250℃の加熱温度でカツプ相互を融合し核上に固着しても、テープ層に熱劣化による大きな損傷を生じ、ゴルフボールの形を成してもゴルフボールとして使いものにならないというのが当業者の判断であつた。これを要するに、ゴルフボールの製造上並びに品質上の要求に照らして、優先日当時の技術水準においてみるとき、第一引用例記載のイオン性交叉結合重合体は、低温流動性が悪く、かえつて、ゴルフボールの外皮材として使い得ないことが示されているのである。しかるに、本件審決は、第一引用例の記載をもつてゴルフボールの外皮として適当な物性を具備しているものと逆の認定をしたものであり、本件審決のこの点の認定は誤りである。

更にまた、本件審決は、第一引用例記載の重合体が「弾力性が優れ、曲げ回復性があり、硬さ及び剛性が大であり、耐衝撃性に優れ、非常に強靱な性質を有し、また、他物質に対する接着性がよいものであることなどが示されている」と認定しているところ、確かに、第一引用例には本件審決が引用するように弾力性、曲げ回復性、硬さ、剛性、耐衝撃性及び接着性について記載されているけれども、第一引用例記載の「イオン性炭化水素重合体」は、フイルム、パイプ、繊維、針金被覆材及び海綿状シート(第9頁左欄第36行ないし第41行)であつて、ゴルフボールに関するものではないし、また、物性自体としても第一引用例の右記載は、それがゴルフボールとして適用性のあることを示唆するものではない。第一引用例には、上記した諸物性の優れていることが記載されてはいるが、これら諸物性は特に記載している場合を除き、未架橋エラストマーないし未加硫ゴム(又はイオン性交叉結合重合体のベースポリマー)と比較して優れていると理解すべきである。このことは、第一引用例中の、①イオン性交叉結合重合体が硫黄架橋、過酸化物架橋等と全く異なつた架橋形態であつて、かかる構造を採ることによつて炭化水素重合体の固体物性と加工性を改善したことについての第一引用例記載の発明の技術的背景に関する記載(第1頁第21行ないし右欄第33行)、②「低分子量共重合体の機械加工性は本発明方法により改善されるが、得られた生成物は高分子量をもつ未変性の共重合体に比べて著しく優れた機械的性質を示さない」(第2頁右欄第24行ないし第27行)、「このものはベース共重合体が不透明であるのに対して透明であり、成型品は引張特性が非常に改善される」(第5頁左欄第12行ないし第14行)、「水酸化物を加えると重合体溶融物はかたく透明なエラストマーになる」(第5頁左欄第37行ないし右欄第1行)及び「すべてのイオン性共重合体はベース共重合体が示さない優れた曲げ回復性を有している」(第5頁右欄第35行ないし第36行)との各記載から明らかである。そして、右②の各記載により明らかなように、第一引用例のイオン性交叉結合重合体の物性は、ベース共重合体(未架橋)との比較で記載されているものであり、このことからみて、他の部分の記載も同様にベース共重合体との比較で記載されているものと理解すべきである。また、ここで「加硫によつてゴム弾性、耐衝撃性、可撓性、熱安定性およびその他の多くの有用な性質が新しく得られる」(第一引用例第1頁左欄下から第3行ないし第1行)こと、及び「非エラストマー重合体を交叉結合させると靱性、耐摩耗性を増加し、特にその物質の高温使用耐性が改善される」(同頁右欄第1行ないし第3行)ことを考慮すれば、第一引用例の前記記載は、「イオン架橋によつて従来の架橋形態と同様に未架橋ポリマーに比較して諸物性の改善ができた」という程度の意味に理解すべきであり、イオン性交叉結合重合体が他の架橋プラスチツクや加硫ゴムと比較して諸物性が優れているという意味に理解すべきではない。いわんや、ゴルフボールカバーに要求される諸物性が優れていることを何ら示唆するものではない。のみならず、一般的物性としての引張り強さとゴルフボールの反撥弾性とは、別異のものであり、前者で後者を推測することは不可能である。ゴルフボールの反撥弾性は、秒速30mないし50mという非常に過酷な打撃を加えた場合の特性であり、このような過酷な条件は、打撃によるストレスとこれによつて生じる歪が比例関係を保つ範囲を超えたところにおいて、同物質の反応を問うものである。このような過酷な打撃下に、ゴルフボールがどのような反撥を示すかは実際に打つてみなくては分からないことである。ベース共重合体のように未架橋の重合体と比較して物性が相対的に優れていても、それでもつてゴルフボールの外皮材への適性を示すものとはいい得ない。第一引用例の物性についての記載は、右のとおり、ゴルフボールと関係のないものであつて、せいぜい第一引用例に用途としてあげられている繊維、針金被覆、海綿状シート(第9頁左欄第38行ないし第40行)などに対する適性を示す程度のものにすぎない。このように、第一引用例におけるイオン性交叉結合重合体の弾力性、曲げ回復性、剛性、耐衝撃性などは、本願発明に関しないフイルム、パイプ、繊維、針金被覆、海綿状シートなどに対する適性を示すものにすぎないにかかわらず、本件審決は、第一引用例記載のイオン性交叉結合重合体のこれら一般的な物性をもつて本願発明のゴルフボールの外皮材への適性を示唆するものと把握したものであり、この点に基本的な誤認がある。

更に、第一引用例には、ゴルフボールに不可欠とする低剪断応力下での流動性について全く記載するところがなく、かえつて、ゴルフボールの外皮材としては、低剪断応力下では流動性が小さくゴルフボールに不適当であることを示唆する記載が存するのである。これを詳説するに、第一引用例には、「第4表から判るように、剪断応力が小さい場合、即ち、溶融係数を測定したような条件下においては、イオン性共重合体はベースの共重合体に比べ小さい溶融係数を示すが、高温度、高剪断応力下においてはイオン性共重合体は著しく流動性に富むようになる」旨(第7頁左欄第1行ないし第6行)及び「剪断応力が小さい場合には重合体が溶融するためには大きな力がいるから、溶融流動性が小さくなる。しかし、この力が高剪断応力によつて克服されればイオン性共重合体は容易に流動する。」(第8頁右欄第39行ないし第42行)旨の記載があり、これらの記載によれば、第一引用例記載の共重合体は、単に、加熱だけでなく、所定の剪断力をかけなければ交叉結合は切れないことを示している。そして、同じく第一引用例第6頁右欄下から第3行以下には、第4表の交叉結合重合体の流動指数を表示したあと、その条件は温度は250℃、5000gであること、つまり、第一引用例記載の共重合体の流動性は、ベース共重合体より小さいこと(流動性を欠くこと。)、流動性を得るためには、高温高剪断応力が必要であると特に記載されているのである。右の記載は、第一引用例記載の共重合体は流動性の剪断速度依存性が大きいことを示しており、そのためゴム糸内芯の劣化を避けねばならないという課題を不可欠の技術的要請として有するゴルフボールの外皮材としてこれを採用できるか否かは一切不明であり、かえつて、不適当なものとしてのみ判断されるものである。

なお、第一引用例記載の組成物は、本願発明の組成物と別紙第二のとおりその範囲を異にする。それのみでなく、第一引用例中には交叉結合剤として適当とするものを掲記したうえで、特に適当でないものに言及し、「一般に交叉結合を生じるのには適当でない金属化合物としては、特に金属酸化物がある。これはその溶解度がほとんどでないからであり、また重合体中に不揮発性の残渣を残すような脂肪酸の金属塩、および必要なイオン性に欠けた金属配位化合物も適当ではない」(第4頁右欄第24行ないし第29行)として、本願発明の発明者が用いた酸化亜鉛を不適当な結合剤として積極的に排除している。(本願発明においては、その特許出願公告公報「(以下本件公報」という。)第2頁左欄第24行以下に、「適当な化合物の実例はナトリウムおよびカリウムの酢酸塩あるいはカルシウム、マグネシウムおよび亜鉛の酸化物などである。」と記載されている。)」

2  第二引用例及び第四引用例に記載の事項についての認定の誤り

本件審決は、「第二引用例および第四引用例には、米国のデユポン社が開発し、サーリンAという商品名で市販しているアイオノマーの物性及び用途について記載されており、サーリンAはエチレンを主成分とする共重合体の長鎖間がイオン力により結合されており、イオン結合にあずかるアニオンは主鎖からぶら下つているカルボキシルにあずかるアニオンは主鎖からぶら下つているカルボキシル基であり、カチオンはナトリウムなどの金属であること、イオン結合により透明度、強度、硬度、剛度、弾性及び接着性が高くなり、プラスチツクの中でもつとも強靱な部類に属するポリマー構造が作り出されること、また、軟化温度が低くVicat軟化温度は約70℃くらいであることなどが示され」ていると認定している。しかし、本件審決は、第二引用例及び第四引用例記載のアイオノマーの物性及び用途についての認定を誤つたものであり、優先日当時において、ゴルフボール製造業界がゴルフボールの外皮材に要求していた低温流動性という観点からの認定を全くしていない。また、本件審決は、第二引用例及び第四引用例記載のアイオノマーは、物性として、「軟化温度が低くVicat軟化温度は約70℃くらいである」と認定しているが、このビカー軟化温度とは、その材料が単に軟化しはじめる温度であつて、その材料が流動性を示す温度ではなく、ゴルフボールとして成型可能な温度を示唆するものでもない。したがつて、ゴルフボールの外皮材の成型加工性を判断するに当たり、ビカー軟化温度のみを取り上げることは誤りである。そして、第二引用例および第四引用例に記載されたアイオノマーの流動性は、優先日当時においてゴルフボールの外皮材として到底使いものにならないと判断されるものであつた。これを詳説するに、アイオノマーの流動性を示すものとして、第二引用例第7頁第1表にメルトインデツクス(メルト・フロー・インデツクスのこと。)が0.05ないし4.0と示されており、また、第四引用例第97頁表1にも、メルトインデツクスが0.05ないし4.0とあり、同第98頁表3にはメルトインデツクスが0.1ないし1.7と記載されている。これらは極めて小さい数値であり、当時ゴルフボール外皮材として試みられたが、実用できず失敗に終わつた第三引用例記載のポリエチレンのメルト・フロー・インデツクスが20(第三引用例第3頁記載の分子量24,000のポリエチレン)であるのと比較し、余りにもかけ離れて小さい(したがつて、溶融流動性の悪い)ものであつた。また、第二引用例第11頁左欄下から第16行ないし第13行において、「サーリンAは一般にメルトインデツクスが小さく、また分子間結合を解いて可塑化するために、やや大きい可塑化トルクを要する。したがつて機械にはやや大きめな背圧がかかり、やや高い成形温度を要する」と記載されており、ここでのやや高い成形温度とは約200℃以上(ゴルフボールの外皮材として必要な流動性の観点から、第二引用例のこの記載をみた場合)を意味し、優先日当時100℃以上は内芯を損なう危険性があるものと考えていた当業者にとつて全く考慮の余地のないほど高い温度であつた。更に、第二引用例第2図には、サーリンAとポリエチレンの流れ特性の比較がされており、同図中のグラフ交点は約390file_2.jpg(約200℃)であり、そこに示されたポリエチレンとは第二引用例第11頁左欄下から第9行に記されているように高密度ポリエチレンと解されるから、200℃以下ではサーリンAは高密度ポリエチレンよりも流動性が急激に悪くなる。ここにいう高密度ポリエチレンは、低密度ポリエチレンに比べ融点が高く、また、流動性も著しく悪いものであつて、高密度ポリエチレンを成形してボール外皮としたゴルフボールは、現在まで存在しないのである。また、第二引用例第12頁左欄下から第4行ないし第3行に要約として、「メルト・インデツクスが低いので、成形温度は高くする必要がある」と記載されており、ここでの成型に必要な温度とは約200℃以上というゴルフボール当業者にとつて考えることもできないほど高いものである。以上のとおり、第二引用例及び第四引用例記載のアイオノマーは、メルト・フロー・インデツクスが極めて小さく(4.0以下)、また、高密度ポリエチレン(低温流動性が悪いのでゴルフボールの外皮材として不適なもの)よりも溶融流動性が(200℃以下において)甚しく悪くなることを示すものであつたから、優先日当時ゴルフボールの外皮材は内芯を損なわない程度の温度(約100℃以下)で溶融流動するものでなければならぬとする当業者の常識からみれば、アイオノマー(サーリンA)はゴルフボールの外皮材として到底用いることのできないものと判断されるのが当然であつた。しかるに、本件審決は、第二引用例及び第四引用例における上述の重要な記載を看過したものである。

なお、本願発明の明細書の実施例Ⅱ中の組成物GはサーリンAER1552に酸化チタン18%を、また、同じく組成物HはサーリンAER1552に酸化亜鉛5%及び酸化チタン13%を混入したものであるが、本願発明の発明者が右のサーリンAを入手したのは本願発明を完成(明細書中実施例ⅠのDの組成物がこれに当る。)した後のことであり、右サーリンAを開発したデユポン社において、それがエチレン/メタクリル酸の金属交叉結合共重合体であることを明らかにし、同時に赤外線分光分析の標準スペクトルを発表したのは優先日後のことであるから、それ以前において右サーリンAの化学構造は第三者には明らかでなく、しかも、本願発明の共重合体は第二引用例及び第四引用例記載の共重合体とその組成物の範囲を異にする。

3  第三引用例に記載の事項についての認定の誤り

優先日前のゴルフボールのうち、バラタ材以外の重合体を使用した公知のゴルフボールとして本件審決が引用するものは、第三引用例に示されるポリエチレンにブチルゴムを混合した外皮材のゴルフボールであるが、第三引用例をゴルフボールの外皮材としての重合体の用途の一例というならば、多数の重合体がゴルフボールの外皮材として用いられていることが前提となるはずであるところ、このような事実はない。当業者は、従来の天然ゴムの主成分たるトランス1.4ポリイソプレンの重合体を用いた外皮材(いわゆる「バラタ材」)に代えて、他の重合体を探し求めていたのであるが、いずれも抗切断性及び反撥弾性に優れたゴルフボールをつくることができず、第三引用例に示されるゴルフボールも、実用化されなかつた。なぜなら、第三引用例において、ポリエチレンとブチルゴムの重合体を交叉結合させるために、イオン化放射線照射を行うが、その照射工程はポリエチレンとブチルゴムの混合物である材料の素材の段階で採用することができず、ゴルフボール成型後に各1個1個のボールに対して照射しなければならないという欠点が存したからである。この欠点は、第三引用例中、①「本発明に従つた混合物がイオン化放射線を照射されるとこの材料は交叉結合され」(第1頁右欄下から第3行ないし第2行)との記載、②「ゴルフボール製造に有害ではない温度で成形され旦放射線照射により」(第2頁左下から第2行ないし第1行)との記載、③「前記ボールは全てヴアンデグラーフ加速機から高エネルギー電子ビームを通して前後に往復して通過させることにより照射された」(実施例Ⅰ、第3頁左欄第14行ないし第16行)との記載及び④「ゴルフボールカバーが例Ⅰに於いて記述された方法によつて従来のゴルフボール芯上に成形され次いでこれ等のボールの周りに配置された放射性コバルト源のγ放射線に露出することにより照射された」(実施例Ⅱ、第3頁右欄第11行ないし第15行)との記載に示されている。右のとおり、第三引用例記載のポリエチレンとブチルゴムの混合物は、ボール成型後に放射線照射を行わなければならず、しかも被覆たる外皮材を均一に照射しなければ、交叉結合の量がばらつき、外皮材が局部的に弱いものとなりゴルフボールとして使えないものとなる。このように、第三引用例のゴルフボールは、ボール成型後放射線照射を行うという点で非現実的であり、また、ゴルフボールとしてもバラタ材のゴルフボールより劣つていたため実用化されなかつた。ゴルフボールメーカーたる原告は、400種に上る多くの重合組成物をこの種試験に供し、そのことごとくが実用としてのゴルフボールとしては採用されるに至らなかつたのであり、本願発明によつてはじめて所期するゴルフボールを得ることができたものであり、この一事によつても本願発明の特許性は明らかである。

4  本願発明の優先日前の当業者の技術水準と各引用例との関係について

ゴルフボールに要求される性質として最も重要なものは、反撥弾性(レジリエンス)と抗切断性である。「反撥弾性」とは瞬間的高速打撃に対する反撥弾性であるが、これはゴルフボールの飛行距離を左右し、物性としての通常用いられる弾性(例えば一定の引張力にどの限度で耐え得るかの数値)とは異なるものであり、通常用いられる弾性が優れていても、ゴルフボールとして反撥弾性が優れているということにはならない。また、「抗切断性」とは耐カツト性ともいい、アイアンクラブ等による打撃によつて、外皮が切断すること(いわゆる切腹)に対する耐抗性であり、この「抗切断性」も外皮材が物性としてもつ衝撃強度、硬度の大小、強靱性及び接着性によつてそのまま決定し得るという性質のものではない。外皮材として使用される共重合体自体がもつ性質が、そのままゴルフボールとしての効果に結びつくものではないことは、ゴルフボールが核と被覆とが一体として成る物であり、その性能は外皮材のみの性質で把握できないことと、更に、核に外皮材を被覆するという製造工程において、加熱、加圧等の諸条件下において、外皮材と核が一体化し、核を熱劣化させていないことが基本的前提となるからである。この物としてのゴルフボールのもつ作用効果と外皮材のもつ材料としての一般的性質とを同視したことに本件審決の基本的な誤りがある。この点を以下詳述するに、まず、ゴルフボールの製造方法は、次のとおりである。

① 半殻状カツプの製造

2つの半殻状のカツプは、従来のバラタ材では、未加硫ゴムのため低温で成型できるので、素材を圧延後、プレスでカツプをつくる。

② 核の製造

核は、センターに糸ゴムを巻きつけて製造するものであるが、この核はゴルフボールの飛び、すなわち、反撥弾性を高めるための重要な要件であつて、この反撥弾性を出すため、糸ゴムは天然ゴムを主体とし、この寸法は厚さ約0.5ミリメートル、幅約1.5ないし2ミリメートルのもので、これをセンターの周囲に糸ゴムを約10倍に引つ張りながら巻きつけて核とするが、1個のゴルフボールをつくるには、約30メートルの糸ゴムを約300メートルに引き伸ばして巻きつけるのであるが、細い糸ゴムを強く引つ張つて巻きつけるため、糸ゴムの切断あるいは表面に傷などが発生しやすい。そのため、ゴルフボールの製造に当たり、糸ゴムの表面に傷のつかないこと、また、糸ゴムを均一に引つ張つて巻きつけることが重要となり、また、後のモールデイングの工程でもこれに熱劣化を与えないことが必須の条件となる。

③ 核とカツプとの合体成型

糸巻芯たる核に2つのカツプを重ね、これらを金型内で加圧、加熱下で合体成型するが、このモールデイングの際には、2つのカップの端面同士を融着させると同時に、カツプたる外皮材を核を形成している糸ゴムと糸ゴムとの狭い間隙に浸透せしめることによつてカツプと核を一体化させるのである。この一体化は、このように外皮材の糸巻芯への浸透によつて得られるものであつて、外皮材の接着力によるものではない。すなわち、②に記したとおり、糸ゴム芯は非常に強く、かつ、密に巻きつけてあるためその間隙は極めて狭く、そのため外皮材料は流動性のよいこと、並びにモールデイングの際の加熱加圧によつて糸巻芯が熱劣化しないこと及び機械的損傷を受けないことが必須である。このように熱劣化及び機械的損傷を避けねばならないというゴルフボールの合体成型の条件の制約からして、外皮材は、必然的に低温流動性をもち、かつ、剪断応力が極めて小さい条件下で流動する性質を不可欠とするものである。

④ 後処理

右の合体成型によつて、核と2つのカツプは合体されるが、バラタ材の場合は、未加硫ゴムであるため、このままでは柔らかく機械的強度がないので加硫処理をしてバラタ材のゴム分子を架橋させる。この外皮材の機械的強度を増すために行われる架橋行程は、本願発明のゴルフボール以外は、常に③の合体成型工程の後の④の後処理工程においてのみ採用されていた。

以上述べたように、ゴルフボールの外皮材は、糸巻芯を熱劣化させないための低温流動性及び核とカツプ相互の合体成型における低剪断応力下での流動性という性質を具備することが不可欠である。しかるに、本件審決は、これらのゴルフボールの外皮材として不可欠である諸性質については、全く考慮することなく、第一引用例ないし第四引用例にはかえつて不利な性質が記載されているのに、これを無視し、あるいはゴルフボールとして是非必要とする諸要因が全く記載されていないのに、あたかも、その記載があるかのように短絡させて結論を導いたものであり、違法たるを免れない。

被告及び被告補助参加人ら(以下「被告ら」という。)は、優先日当時の技術水準を示すものとして、丙第1号証ないし第8号証を挙示するが、右丙号各証はいずれもゴルフボールとして実際に世に出ることのなかったいわば失敗例としての文献である。右丙号各証の樹脂は、ゴルフボールの製造において半殻の糸巻芯の融着成型工程が終わつた後に加硫、電子線照射などの方法により交叉結合されるものであつて、第一引用例、第二引用例及び第四引用例記載の樹脂のようなイオン性交叉結合によるものではない。また、丙第5号証ないし第8号証の場合、右各引用例記載の樹脂の交叉結合が可逆的であるのと異なり、その交叉結合は非可逆的であるから、いつたん共重合体を交叉結合させてしまうと共重合体の流動性が損なわれ、軟化しにくくなり、したがつて、融合させるためにはより高温度を必要とすることとなり、そのため半殻状のカツプをボールのゴム糸巻芯に外側から融合成型させる前には交叉結合させることができないのである。なお、丙第5号証ないし第8号証は新たな公知例を引用するものであって、本訴において追加することは許されない。

5  本願発明の作用効果についての認定の誤り

本願発明のゴルフボールは、抗切断性、反撥弾性、飛行距離において従来のゴルフボールに比べ著しく改善され、更に廃物材料の再使用、不完全なボールの再成型及び着色性に優れているなどの顕著な作用効果を有するものであるところ、本件審決はこの点の認定判断を誤つたものである。すなわち、

(1) 新規なゴルフボールの外皮材としての成功

優先日前50年以上にわたつて、ゴルフボールの外皮材として用いられていたものは、トランス1.4ポリイソプレンを主成分とする外皮材(バラタ)を用いたもののみである。このバラタは高価であつたため、これに代替し得る外皮材によりゴルフボールを製造することは当業者の最大の課題であつたところ、本願発明はこの課題をはじめて解決したものである。換言すれば、ゴルフボールの製造が企業化されて以来、唯一最大の課題は、従来のバラタゴルフボールに比肩できるボール、つまりバラタゴルフボールと同程度の作用効果をもつゴルフボールを市場に提供することにあつた。当業者がひとしくバラタ材の代替材を見いだすことに腐心した最大の理由は、バラタ材が高価であることにある(ちなみに優先日時において、第三引用例記載のポリエチレンに比べると、バラタはポリエチレンの約20倍の価格である)。大衆化しているゴルフボールの市場において、安価であることは、ボールの性能上の多少の不利を克服できる有利な条件であるにもかかわらず、バラタボールに代替できる製品が、本願発明のゴルフボールの出現まで存在しなかつたこと、すなわち、本願発明において、はじめてバラタ材ボールの代替が可能となつたのであり、つまり多年にわたる当業者の念願が本願発明によつて達成できたのであり、このことは最も極端に本願発明の作用効果が顕著である事実を示すものにほかならない。

(2) 抗切断性について

本願発明のゴルフボールは、本願発明の構成を採用することにより従来のゴルフボール(バラタ材を外皮としたゴルフボール)に比べて著しく優れた抗切断性を有する。実施例に記載された抗切断性のスラブ試験結果は別紙第3のとおりである。一方、従来のバラタ材を使用した外皮材(本件公報第3頁第6欄第13行ないし第22行に示すもの)の抗切断性は、同頁第1表Eに示すとおり275であり、また、バラタ材を硬化した試料F(本件公報第3頁第6欄第30行ないし第33行)もその数値は300である。なお、抗切断性に関し、本願発明の明細書には、試験片の結果だけを記載してあるが、その理由は、ゴルフボールの抗切断性は材料片では予測できず、いちいちゴルフボールを製造してみたうえで、1つ1つの実験の積み重ねによつて見いだし得るものであり、(その実験方法は別紙第4に示す装置によつて行われる。)、このゴルフボールの抗切断性のテスト器によるテスト結果の評価は目視による判定であつて、客観的に定量化することが困難であり、かつ、数値化しても一般に通用する物理量ではないため、明細書中では単に定性的表現での記載にとどめ、定量値としてはゴルフボールの外皮材を試験片として測定した物理量としての抗切断性を示すこととしたにとどめたのである。ゴルフボールとしての製造条件を一切考慮しないまま、単に一般的な物性として示されているものと、具体的な製造条件を設定し、それによつてゴルフボールとして優秀であることが確認された後に、その完成されたゴルフボールの特定の外皮材の物性を試験片として示すこととは明らかに異なるのである。つまり、第一引用例、第二引用例及び第四引用例のように、一般的な重合体組成物についての物性の記載から本願発明を予測できないという主張と本願発明の明細書が本願発明の構成部分としての外皮材について、その物性を試験片で示していることとの間には少しの矛盾も存しないのである。そして、本願発明の明細書には、試験片の結果に加えて、ゴルフボールの抗切断性が優れていることについて、①「組成物Dより形成される被覆物を有するゴルフボールは他と比較して優れた抗切断性を有する。」旨(本件公報第4頁第7欄第14行ないし第15行)及び②「組成物GおよびHを使用して満足すべき、使用に適するゴルフボールを得る。しかもこれらは抗切断性に関して組成物Eより形成される被覆物を有するボールより実質的にすぐれて」いる旨(本件公報第4頁第8欄第15行ないし第18行)記載されている。

右のとおり、本願発明のゴルフボールは、従来のバラタ材外皮材のゴルフボールに比べ抗切断性が著しく優れているものである。

(3) 反撥弾性について

本願発明のゴルフボールは、従来のゴルフボールに比べて、著しく優れた反撥弾性を有している。右にいう反撥弾性とは、ゴルフボールを非常な高速(秒速30mないし50m)でクラブヘッドを振り降ろして打撃した場合に、その打撃によつてボールに加えられたエネルギーが、どの程度飛ぶエネルギーすなわち飛翔力に転化されるかを示す尺度であり、本願発明のゴルフボールは、本願発明の構成を採用することにより著しく優れた反撥弾性を示し、よく飛ぶものである。なお、ゴルフボールがよく飛ぶということは、ゴルフアーのたとい少しでもより遠くへ飛ばしたいという欲求を満足する点からみて、商品価値として極めて重要なフアクターである。本願発明のゴルフボールは、実施例Ⅴ(本件公報第6頁第Ⅵ表)の本願発明のボール(CP4)と対照用ボール(CP2、CP3)との比較試験により明らかとなり、著しく優れた反撥弾性、飛距離を有するものである。

(4) 再生利用について

本願発明のゴルフボールは、本件公報第2頁第4欄第38行ないし第3頁第5欄第9行に示されているように、本願発明に使用される「共重合体」組成物は熱を適用することによつて、ある所要の時間で融解及び固化するため、ゴルフボールの成形中に生ずる廃物を再使用し得るという重要な利点を有し、また、間違つた成型によつて生ずる不完全なゴルフボールを完全に再成形することができるという、従来のバラタ材外皮のゴルフボール等にはない利点を有する。

(5) 製造工程の短縮について

本願発明の「共重合体」組成物は、樹脂自体にイオン性交叉結合を含むため、架橋剤の混練配合工程、加硫工程を必要とせず、バラタ材を使用する場合に比べて大幅に製造時間を短縮することができる。通常、バラタ材のゴルフボールを製造するのに約20日間かかるが、本願発明の「共重合体」組成物の外皮の場合、混練から外皮材料のハーフシエル成形までの工程で4日、加硫工程で3日間の短縮ができるため約13日間で済むこととなる。

第三被告の答弁

被告指定代理人及び被告補助参加人ら訴訟代理人は、請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。

一  請求の原因一ないし三の事実は、認める。

二  同四の主張は争う。本件審決の認定判断は、正当であつて、原告ら主張のような違法の点はない。

1  同四1及び2の主張について

第一引用例には、実施例4及び実施例6を除く全実施例にメタクリル酸10重量%を含有するエチレン―メタクリル酸共重合体をナトリウム、ストロンチウム及びマグネシウム等の金属の化合物で交叉結合したイオン性共重合体が記載されており、これらのイオン性共重合体は本願発明のゴルフボールの外皮材の要件を満足する。すなわち、第一引用例の右実施例記載のイオン性共重合体は、本願発明のゴルフボールの外皮材共重合体と同一の物質である。また、第一引用例の右実施例並びにそれに続く第8頁第3行ないし第9頁右欄第7行にはそれらの実施例の共重合体は弾力性、曲げ回復性、引張り強さ、硬さ、剛性、衝撃強さ(第8頁右欄第12行ないし第23行)、応力亀裂耐性、裂け耐性及び接着性(第9頁左欄下から第13行ないし第9頁右欄第4行)等の諸物性に優れていること、及び溶融係数が極めて低く一見溶融加工し得ないかのようにみえるが、実は溶融押出し、射出成形及び圧縮成形を容易に行うことができること、これは溶融係数測定の際と実際の成形加工の際とでは溶融樹脂にかけられる剪断力の差によると考えられること(第8頁右欄下から第17行ないし第11行)等が記載されている。第一引用例の右の記載、すなわち第一引用例の実施例の共重合体(前述のとおり本願発明のゴルフボールの被覆と同一の共重合体である。)の優れた物性、殊に弾力性、曲げ回復性、硬さ、剛性及び衝撃強さ、接着性の記載及び圧縮成形その他の成形が容易であるとの記載を従来のゴルフボールの外皮材の抗切断性を改善しようとする当業者がみたとき、当業者はゴルフボールの外皮材として第一引用例記載の実施例の共重合体を使用することを直ちに着想し得ることは明らかである。なお、原告らは第一引用例が酸化亜鉛を不適当な結合剤として排除していると主張するが、原告が引用する第一引用例第4頁右欄第24行ないし第25行に記載の「交叉結合を生じるのに適当でない」金属酸化物とは、その第26行に「これはその溶解度がほとんどないからであり」と記載されているように、水その他の溶媒に不溶解性の酸化物を指しているのであつて、酸化亜鉛は水に一部可溶であるから、右交叉結合を生じるのに適当でない酸化物には該当しない。第一引用例第7頁左欄第10行ないし第13行に、「水に溶解してイオンになる酸化亜鉛を交叉結合剤として使用した場合(生成物No.8)には、部分的にイオン性をもつた共重合体が得られる。」と記載してあるとおり酸化亜鉛は部分的にイオン性をもつた交叉結合共重合体を得るのに好適な交叉結合剤として使用されているのであつて、原告らの右主張は失当である。第二引用例には、米国デユポン社によつて開発されたアイオノマー樹脂と呼ばれる新しい樹脂群の1つであるサーリンA及びその物性について紹介されており、サーリンAは「架橋した炭化水素重合体の固体状態におけるのぞましい性質を持つと同時に、架橋しない炭化水素重合体のもつのぞましい溶融流動性をあわせ持つ画期的プラスチック」(第二引用例第6頁右欄第7行ないし第10行)であり、エチレンを主成分とする共重合体の分子鎖間がイオン的に交叉結合し、このイオン結合によるアニオンは主鎖にぶら下つているカルボキシル基であり、カチオンはナトリウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛等の金属であること(第二引用例第6頁右欄第18行ないし第24行)、強靱性、可撓性、弾力性(第二引用例第8頁左欄下から第3行ないし第9頁右欄下から第6行)、基材への接着性(第二引用例第10頁右欄第13行ないし第24行)に優れ、約70℃のビカー軟化点(第二引用例第10頁右欄第25行ないし第28行)を有すること等が述べられている。本件審決が引用する第四引用例にもサーリンAの物性について記載されており、イオン結合により、イオン結合のない樹脂に比べ、強度、硬度、剛度のいずれも増加するが加工性は損なわれないこと、弾性が高く、基材への接着性が優れていること(第四引用例第96頁第2欄第6行ないし第15行)、約70℃のビカー軟化点を有すること(第四引用例第97頁表1)等が述べられている。アイオノマー樹脂について述べた第二引用例及び第四引用例の右の紹介記事を当業者が読めば、当業者は、当然そこに記載されているアイオノマー樹脂に関するデユポン社の特許を調査し、その該当する特許として第一引用例を容易に見いだすことができる。すなわち、第一引用例の共重合体と第二引用例及び第四引用例の共重合体とは、主成分であるエチレン及びこれと共重し得るカルボキシル基含有モノマーとの共重合体であつて、その長鎖分子間のカルボキシル基が金属イオンを介して交叉結合しているという特異な分子構造を有すること、優れた透明性と強靱性を有すること等において一致し、殊に第二引用例の前記第6頁右欄第7行ないし第10行の「架橋した炭化水素重合体の固体状態におけるのぞましい性質を持つと同時に、架橋しない炭化水素重合体ののぞましい溶融流動性をあわせ持つ」という記載と第一引用例の第1頁右欄下から第17行ないし第13行の「本発明のさらに他の目的は交叉結合した炭化水素重合体の固体状態における望ましい性質をもつと共に、交叉結合しない炭化水素重合体のもつ溶融流動性をあわせ持つている炭化水素重合体の製造法を提供することである。」という記載と完全に符号する。以上の理由により第二引用例及び第四引用例に紹介されている新規樹脂群アイオノマー樹脂は、すなわち第一引用例に記載されたイオン性交叉結合を有する共重合体樹脂であることは明らかである。したがつて、第二引用例及び第四引用例に記載された共重合体の強度、硬度、剛度、強靱性、弾力性、基材への接着性等の諸物性をゴルフボールの外皮材の抗切断性を改善しようとする当業者が読めば、これをゴルフボールの外皮材として使用することに直ちに着想することができる。

一方、乙第1号証の宣誓供述書から明らかなとおり、本願発明の実施例Ⅱで用いた共重合体は、第二引用例及び第四引用例に記載され、優先日前に公知のサーリンAの特定銘柄の1つであるサーリンA1552である。それゆえ、本願発明は、第二引用例及び第四引用例によりゴルフボールの外皮材として好適な物性を備えていることの明らかなイオン交叉結合を有する共重合体を単にゴルフボールの外皮材として使用したにすぎないものである。なお、右サーリンAは、優先日前に三井ポリケミカル株式会社により日本国内に市販され、需要家はこれを入手することが可能であつた。

原告らは、第一引用例のイオン性交叉結合重合体並びに第二引用例及び第四引用例記載のアイオノマーは、ゴルフボールの外皮材に必須の条件である100℃前後の低温で成形できる低温流動性がない旨主張するが、優先日当時、当業者が一般にゴルフボールの成形温度100℃前後と限定的に考えていたという事実はない。例えば、第三引用例の実施例1のD組のボールは、135℃で成形されており、カナダ特許第635、447号明細書(1962年1月30日特許。丙第19号証)第5頁第9欄第22行ないし第24行には、210file_3.jpgないし310file_4.jpg(99℃ないし154℃)の成形温度が示されている。また、丙第4号証(1957年12月10日特許の米国特許第2、815、957号)の第1頁第2欄第55行ないし第62行には、222file_5.jpgないし225file_6.jpg(100℃ないし107℃)の温度、250ないし500p・s・iでの圧力で8分ないし6分間というゴルフボールの圧縮成形条件が示され、それに続いて、もつと高い温度を用いるときにはセンターの過熱を防ぐために、時間を短くすべきであること、右温度、圧力及び時間は、使用する重合体の種数及び量に応じて変更し得ること等が記載され、ゴルフボールの成形温度等の成形条件は何ら限定的でないことを明示している。また、メルト・フロー・インデツクスやスパイラルフロー等の値を、ゴルフボールの外皮材の適否を判断する基準として一般に当業者が用いていたという事実もない。元来、メルト・フロー・インデツクスやスパイラルフローの値は、必ずしも実際の成形条件における材料の流動性を表示するものではない。このことは、第一引用例第8頁右欄下から第17行ないし第11行の、イオン性共重合体は、溶融指数が極めて低く、一見溶融加工し得ないようにみえるが、実は溶融押出し、射出成形、圧縮成形等を容易に行うことができるという記載等により裏づけられる。ゴルフボールの成形は、周知のとおり、圧縮成形方法によつて行われ、そして、圧縮成形では、金型内にあらかじめその形状に応じた樹脂(ゴルフボールの場合は半殻状に成形した外皮材)を充填して成形するので、射出成形や中空成形に比べ、樹脂の流動性は少なくてよい。当業者は、右の事実、すなわち、メルト・フロー・インデツクスやスパイラルフロー等の値は、実際の成形加工時の樹脂の流動性を正確に表すものでなく、ゴルフボールの成形に使用される圧縮成形方法において殊にそうであり、かつ、ゴルフボールの成形を100℃付近で行う必要は何らないことを知つており、しかも、第二引用例には、サーリンAは架橋しない炭化水素重合体の溶融流動性をもつということ、第四引用例には、イオン結合によつて加工性は損なわないということ、第一引用例には、溶融指数が極めて低いにもかかわらず、圧縮成形及びその他の成形方法を容易に行うことができる、ということが記載されている。それゆえ、たとい第二引用例及び第四引用例にサーリンAは流動性が低いということが記載されていたとしても、そのような記載は当業者にとつて何ら決定的なものでなく、この記載によつて、ゴルフボールの外皮材として極めて魅力的なサーリンAの使用を試みもせずに断念するということはあり得ない。更に、原告らは、第一引用例には、そのイオン性共重合体は低剪断応力下では流動性が小さくゴルフボールの外皮材として不適当であることを示唆する記載がある旨主張するが、第一引用例中の「第4表から判るように、剪断応力が小さい場合、即ち、溶融係数を測定したような条件下においては、イオン性共重合体はベースの共重合体に比べ小さい溶融係数を示すが、高温度、高剪断応力下においてはイオン性共重合体は著しく流動性に富むようになる」(第7頁左欄第1行ないし第6行)との記載は、第一引用例第8頁右欄第33行ないし第37行の記載と同様に、溶融係数の測定値そのものをみると、あたかも溶融加工できないと思われるほどの小さい値が示されていても、実際の加工条件では容易に加工できる、すなわち、MFIやスパイラルフローのような流動性を示すパラメーターの値は、必ずしも実際の加工性を正しく反映しない(丙第23号証)というのと同様のことを述べているのであり、第一引用例中の「勿論このことは、例えば溶融係数測定器と押出器の中における剪断応力の差によつて説明することができる。剪断応力が小さい場合には重合体が溶融するためには大きな力がいるから溶融流動性が小さくなる。しかし、この力が高剪断応力によつて克服されればイオン性共重合体は容易に流動する」(第8頁右欄第37行ないし第42行)との記載は、その理由を押出器について説明しているにすぎない。以上のとおり、第一引用例中には、圧縮成形において糸巻芯に損傷を与えるほど大きな剪断応力なしには成形できないということを示唆するような記載はない。

2  同四3及び4の主張について

糸巻芯に外皮を被覆した構造のゴルフボールの外皮材としてバラタ材が古くから使用されたが、各種の合成樹脂が開発されるに及んで、バラタ材外皮の抗切断性その他の性能を改善するためにそれらの合成樹脂をゴルフボールの外皮として使用することが試みられるようになつた。例えば、古く1940年(昭和15年)11月1日出願(1944年11月14日特許)の米国特許第2、362、961号(丙第1号証)によりゴムにポリビニルアセタールを配合した強靱性及び反撥性に優れ、耐摩耗性と抗切断性の高いゴルフボールの外皮材が提案され、その後エチレン―酢酸ビニル共重合体けん化物よりなる強靱ゴルフボール外皮材(1943年6月6日米国出願に基づく英国特許第634、140号、1950年3月15日公告。丙第2号証)、ある種の変性ポリアミドよりなるクリツク、抗切断性、強靱性、加工性及び反発性の優れたゴルフボール外皮材(1950年2月7日出願、1954年6月15日特許の米国特許第2、681、096号。丙第3号証)、メタアクリル酸アルキルと共役ジエン類の共重合体樹脂とゴムよりなるクリツク、抗切断性、強靱性及び加工性の優れたゴルフボールの外皮材(前記丙第4号証)等が提案された。また、右に例示したような合成樹脂外皮材の出現に続いて、その抗切断性その他の強度特性を一層増大させるために交叉結合可能な合成樹脂を外皮材としてゴルフボールを成形した後、交叉結合させる方法が開発され、この種の特許も多数知られるに至つた。例えば、ポリエチレンを外皮材として成形したゴルフボールに高圧電子線を照射して外皮の強靱性、耐摩耗性及び抗切断性を増大させる方法(1955年11月10日出願。1957年9月3日特許の米国特許第2、805、072号。丙第5号証)、同じくポリエチレンを外皮材としたゴルフボールの外皮材をジクミルパーオキサイドで交叉結合させて外皮の耐摩耗性、抗切断性を増大させる方法(1957年6月21日米国出願に基づく英国特許第884、304号、1961年12月13日公告。丙第6号証)、高軟化点ポリオレフインにエラストマーを混合した外皮材を用いてゴルフボールを成形した後、放射線を照射して交叉結合を生ぜしめ、ゴルフボールの外皮材の抗切断性を高める方法(昭和34年3月30日出願、昭和36年10月9日出願公告の特公昭36―18733号公報。第三引用例)、エチレン、プロピレンの単独重合体又はそれらと高級オレフインとの共重合体樹脂、高スチレン含量スチレン―ブタジエン共重合体樹脂、高メタアクリレート含有ブタジエン―メタアクリレート共重合体樹脂等の熱可塑性樹脂の外皮を化学的に硬化させ、次に放射線で照射して交叉結合させゴルフボール外皮の抗切断性及び耐摩耗性を増大させる方法(昭和35年1月28日出願、昭和37年6月23日出願公告の特公昭37―5730号。丙第7号証)、硬化できるポリウレタンプレボリマーからつくつた部分的に硬化した半殻状外皮材を用いてゴルフボールを成形し外皮材を硬化させ、抗切断性の優れたゴルフボールを優れたを得る方法(1960年5月19日イギリス国出願、特公昭38―26290号、昭和38年12月13日出願公告。丙第8号証)等が優先日前に知られている。右に述べたところから明らかなとおり、芯に被覆を施した型の構造を有するゴルフボールは、優先日前周知であつたばかりでなく、右構造のゴルフボールの外皮材として各種の合成樹脂を使用すること、及び交叉結合可能な熱可塑性合成樹脂を外皮材に用いてゴルフボールを成形し、かつ、交叉結合させることにより、合成樹脂外皮材の抗切断性、耐摩耗性等の強度的性能を改善し得るということは優先日前における当業者の技術知識の水準であつた。第一引用例、第二引用例及び第四引用例に記載されたイオン性交叉結合を有する共重合体をゴルフボールの外皮材として使用するようなことは、右の技術水準そのままであり、これを越える何らの創意も存在しない当業者に自明の技術である。本件審決は、優先日前における当業者の技術水準を示す代表例として第三引用例を引用したものであり、本願発明は、前述のとおり、右技術水準を越えないものであるから、第三引用例と第一引用例、第二引用例及び第四引用例の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認めた本件審決の認定に誤りはない。なお、丙第五号証ないし第八号証記載の重合体の交叉結合が非可逆的であり、第一引用例、第二引用例及び第四引用例記載のイオン性共重合体の交叉結合が可逆的であることは認めるが、当業者はこの点を熟知しており、この相違点は、右各引用例から本願発明に想到することを妨げるものではない。また、丙第5号証ないし第8号証は、第一引用例、第二引用例及び第四引用例を補足するための資料であるから、その提出は容認されるべきである。

3  同四5の主張について

本願発明の明細書には、本願発明のゴルフボールの外皮材に使用される重合体は廃材を再使用し得ること、及び複雑な前処理なしに着色できること(本件公報第2頁第4欄第38行ないし第3頁第5欄第9行)が利点として記載されているほかは、本願発明の目的効果に関し明確な説明はないが、実施例に外皮材の試験片の抗切断性、硬度、ビカー軟化点等の物性及びゴルフボールの反撥弾性及び飛距離等が対照例と比較して示されているので、これらについて述べるに、①抗切断性及び硬さについて、本願発明の明細書の実施例には、本願発明の外皮材とイオン性交叉結合を有しない重合体の対照外皮材の試験片について抗切断性及び硬さの比較がなされており、本願発明の試験片の方が抗切断性及び硬度が大であるという結果が示されている。しかしながら、既に述べたとおり、合成樹脂性ゴルフボール外皮材の抗切断性は交叉結合によつて改善し得ることは、優先日前における当業者の技術知識の一般水準であり、このことからして本願発明の実施例の右結果は当業者に自明のことである。のみならず、既に述べたとおり、イオン性交叉結合を有するエチレン―不飽和モノカルボン酸共重合体が、剛性、強靱性、耐衝撃性及び硬度等の強度特性においてイオン性交叉結合を有しない重合体に比べ大であることは第一引用例、第二引用例及び第四引用例等に記載されているところであり、これらの記載から本願発明の外皮材がイオン性交叉結合を有しない対照の外皮材に比べ抗切断性が大であることは当業者が容易に予測することができる。また、硬度が大であるという本願発明の効果は、第四引用例にイオン結合によつて硬度が増加する(第四引用例第96頁第2欄第6行ないし第11行)ということが記載されており、優先日前公知のことである。②ビカー軟化点について、本願発明の明細書の実施例には、ビカー軟化点が70℃、79℃等であるイオン性共重合体が例示されているが、第二引用例第10頁右欄第27行及び第4引用例第98頁の表3等の記載により本願発明のゴルフボールの外皮材イオン性共重合体が役70℃のビカー軟化点を有することは、優先日前公知である。③飛距離及び反撥弾性について、本願発明の明細書の実施例Ⅳ及びⅤには、本願発明の外皮材をイオン性交叉結合させていない対照の外皮材と比較した飛行試験について記載され、実施例Ⅴには、反撥弾性についても示されている。しかしながら、本願発明の明細書の右記載によれば、本願発明のゴルフボールの飛行性能及び反撥弾性は、対照例と大差なく同程度であり、これをもつて本願発明のゴルフボールが格別優れた性能を有するものと認めることは到底できない。本願発明のゴルフボールの外皮材がイオン結合をもたない共重合体よりも高い反撥弾性を示すことは前述の第一引用例、第二引用例及び第四引用例に記載されたイオン性共重合体の弾性的性質から当業者が容易に予測をすることができることであり、また、「モダーンプラスチックス」1964年9月号第98頁(丙第15号証)左欄下から第3行ないし第2行の、イオン性交叉結合により高度のレジリエンスが与えられるという記載によつて当業者に自明である。しかも、ゴルフボールの反撥弾性について記載した唯一の実施例である実施例Ⅴは、本願発明の特許出願後5年10か月も経過した後である昭和46年12月11日にはじめて加入されたのであつて、そのように遅くなつて作られた実施例でさえ前述のとおり対照例と大差がなく、格別優れた性能が得られたということはできないのみならず、出願当初の明細書の記載で発明の進歩性も作用効果も確認できないのに、専ら後日の補正によりこれを確認できる場合は、要旨の変更というべきところ、本願発明における前記の補正(実施例ⅤないしⅩⅤの加入その他明細書本文、実施例Ⅱ及び特許請求の範囲の補正)は要旨の変更というべく、これによつて、特許性を肯定することはできない。④廃材の再使用性及び着色性について、本願発明のゴルフボールの外皮用イオン性共重合体が容易に溶融成形し得ることは、前述のとおり第一引用例、第二引用例及び第四引用例に明記されており、そうである以上、廃材の再生使用が可能であることは、優先日前当業者に自明である。また、着色性については、第一引用例第9頁左欄第10行ないし第18行にイオン性共重合体の利点の1つとして着色性があげられており、第二引用例の第11頁左欄第2行ないし第9行にも記載されている。右のとおり、本願発明のゴルフボールの外皮材用イオン性共重合体の物性は、いずれも第一引用例、第二引用例及び第四引用例に記載されているか、又は右各引用例に記載された物性から当業者が予測できる程度であつて格別の効果と認めることができない。殊に、原告が強く主張する本願発明のゴルフボールの抗切断性及び反撥弾性は、抗切断性については第一引用例、第二引用例及び第四引用例に記載されたイオン性共重合体の物性から当業者が充分予測をすることができるものであり、反撥弾性については従来技術と同程度であるにすぎない。それゆえ、本願発明のゴルフボールは従来のゴルフボールに比べ格別の効果を奏するということができないのである。

第四証拠関係

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。なお、被告補助参加人らは甲号各証及び検甲号各証に対する認否は、被告のそれと同一であり、原告補助参加人は、乙号及び丙号各証並びに検丙号各証に対する認否は原告のそれと同一であると述べた。

理由

(争いのない事実)

一  本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告ら主張のとおりであることは、当事者間に争いがないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審決は、次に説示する理由により違法として取り消されるべきものと判断する。

前示本願発明の要旨に成立に争いのない甲第2号証(本件公報)を総合すると、本願発明は、ゴルフボールに関する発明で、ゴルフボールの芯をなす核に損害を与えることなく、しかも従来のゴルフボールよりも衝撃性に強く、大きい抗切断性、反撥弾性及び硬さを備えたゴルフボールを得ることを技術的課題ないし目的とし、前示本願発明の要旨記載のとおり(明細書の特許請求の範囲の記載に同じ。)の構成を採用することにより、右課題を解決し、所期の目的を達したものであり、バラタ材又は単一重合体を外皮の組成物とするゴルフボールに比し、大きい抗切断性、反撥弾性を示し、優れた飛翔性を有するとともに糸巻芯に機械的損失を与えることがないという顕著な作用効果を奏し得るほか、本願発明に使用される共重合体組成物は熱を適用することによりある所要の時間で融解及び固化する能力を有するためゴルフボールの成型中に生ずる廃物材料を再使用し得るという重要な利点があり、また、間違つた成型によつて生ずる不完全なゴルフボールを再成型することをも可能にする効果があることを認めることができる。被告らは、原告がなした本願発明についての昭和46年12月11日付手続補正書による補正は要旨の変更であつて、これによつて特許性を肯定することができない旨主張するが、本件審決は右補正が適正になされたことを前提にして審理判断したものであることは成立に争いのない甲第1号証(本件審決謄本)に照らして明らかであり、被告らの右主張は被告自ら適正と判断した事項を無視した主張というべく、到底採用することができない。更に、被告らは、本願発明の作用効果は格別のものでない点の立証として、丙第16号証の4及び第22号証を挙示するも、右丙号各証は、成立に争いのない甲第15号証、第20号証、第26号証並びに第27号証の5及び6並びに弁論の全趣旨により原本の存在及び成立の認められる甲第18号証の1及び2に照らし、上記認定の本願発明の作用効果を覆すに足りず、その他上記認定を動かすに足りる証拠はない。

他方、第一引用例、第二引用例及び第四引用例に本件審決認定のとおりの記載内容があること(第二引用例及び第四引用例記載のサーリンAが市販されているとの点を除く。)は当事者間に争いがないところ、原告らは、本願発明の共重合体と第一引用例記載の共重合体並びに第二引用例及び第四引用例記載のアイオノマーとが同じものであるとした本件審決の認定判断を争うので、この点につき検討するに、第一引用例、第二引用例及び第四引用例が優先日前に日本国内において頒布された刊行物であることは原告らの明らかに争わないところ、第一引用例の前示の記載内容に成立に争いのない甲第3号証(第一引用例)を総合すれば、第一引用例には、その実施例1ないし3及び実施例7ないし11にメタクリル酸10重量パーセントを含有するエチレン―メタクリル酸共重合体をナトリウム、ストロンチウム又はマグネシウム等の金属の化合物で交叉結合したイオン性共重合体が記載されていることが認められ、右記載によれば、これらの共重合体は本願発明のゴルフボールの外皮材の要件、すなわち、「エチレンと3~8個の炭素原子を有する少なくとも一種の不飽和モノカルボン酸との共重合体を含む組成物から成形されており、この共重合体が熱変化性金属交叉結合を有し、かつ4~30重量パーセントのモノカルボン酸を含有する」との要件を満足するものであることは明らかであるところ、上掲証拠によれば、第一引用例の共重合体は、弾力性、曲げ回復性、硬さ、剛性、耐衝撃性、強靱性及び接着性の諸物性に優れ(第8頁右欄第12行ないし第27行、第9頁左欄第36行ないし右欄第4行)、交叉結合した炭化水素重合体の固体状態における望ましい性質をもつとともに、交叉結合しない炭化水素重合体のもつ溶融流動性を合わせもつものであること(第1頁右欄第28行ないし第31行)が記載され、その用途として、透明性の優れたフイルム、応力―亀裂耐性の優れたパイプ、電気的性質及び弾力性が優れた繊維、裂け耐性が優れ、また、金属イオンを含むにもかかわらず、良好な誘電特性を有する針金被膜、海綿状シート等が挙げられているが(第9頁左欄第36行ないし右欄第7行)、ゴルフボールの外皮材のような被殴打物に用いることについては、何らの記載もないことを認めることができる(なお、原告は、第一引用例では、交叉結合剤として本願発明において用いられる酸化亜鉛が積極的に排除されている旨主張するが、前掲甲第3号証によれば、第三引用例第7頁中第4表には適当な交叉結合剤として酸化亜鉛が示されていることが認められるから、右主張は採用し得ない)。次に、第二引用例の前示の記載内容に成立に争いのない甲第4号証の1ないし4(第二引用例)を総合すれば、第二引用例には、米国デユポン社によつて開発された「アイオノマー」と呼ばれる樹脂群の1つであるサーリンA及びその物性について紹介されており、サーリンAは、「架橋した炭化水素重合体の固体状態におけるのぞましい性質を持つと同時に、架橋しない炭化水素重合体のもつのぞましい溶融流動性をあわせ持つ画期的なプラスチック」(第6頁右欄第7行ないし第10行)であり、エチレンを主成分とする共重合体の長鎖分子間がイオン力により結合されており、このイオン結合にあずかるアニオンは主鎖からぶら下つているカルボキシル基であり、カチオンはナトリウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛等の金属であつて(第6頁右欄第18行ないし第24行)、強靱性、可撓性、弾力性(第8頁左欄下から第3行ないし第9頁右欄下から第6行)、基材への接着性(第10頁右欄第13行ないし第24行)に優れ、約70℃のビカー軟化点(第10頁右欄第25行ないし第28行)を有することが記載され、その用途として、第12頁右欄第19行ないし第13頁左欄第15行に、電線被覆、パイプ、フイルム、シート等が挙げられているが、ゴルフボールの外皮材のような被殴打物に用いることについては何ら記載するところがないことが認められる。また、第四引用例の前示の記載内容に成立に争いのない甲第6号証の1ないし4(第四引用例)を総合すれば、第四引用例にも、サーリンAの物性について記載されており、イオン結合により、イオン結合のない樹脂に比べ、強度、硬度、剛性のいずれも増加するが加工性は損なわれず、弾性が高く、基材への接着性が優れていること(第96頁第2欄第6行ないし第15行)、約70℃のビカー軟化点を有すること(第97頁表1)が記載され、その用途として、コーテイング、フイルム、シート等が示されているが、ゴルフボールの外皮材のような被殴打物に用いる点について何ら触れる記載がないことを認めることができる。以上認定の各事実によれば、第一引用例の前示の共重合体と第二引用例及び第四引用例の共重合体とは、共に主成分であるエチレン及びこれと共重合し得るカルボキシル基含有モノマーとの共重合体であつて、その長鎖分子間のカルボキシル基が金属イオンを介して交叉結合しているという特異な分子構造を有し、強靱性等の諸物性が符合するということができ、これらによれば、第二引用例及び第四引用例に紹介されている樹脂群アイオノマーは、すなわち第一引用例に記載されたイオン性交叉結合を有する共重合体樹脂であるということができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そうすると、本願発明の構成をなす外皮材は第一引用例、第二引用例及び第四引用例記載の共重合体と同一のものであり、本願発明は従来ゴルフボールの外皮材として用いられることなかつた右各引用例記載の前示共重合体をゴルフボールの外皮材に用いることにより前認定のとおりの優れた性能等を有するゴルフボールを提供したものと認めるべきである。

そこで、原告らが争点とする第一引用例、第二引用例及び第四引用例記載の前示共重合体をゴルフボールの外皮材として用いることが容易になし得るものであるか否かにつき検討するに、本件審決は、この点の理由の1つとして第三引用例を引用し、「第三引用例はその一例であるが、ゴルフボールの外皮は、重合体の用途としては周知のもの」である旨認定し、第三引用例に、本件審決認定のとおりの記載内容があることは当事者間に争いがないところ、右の記載内容はゴルフボールの外皮が重合体の用途として周知であることを示すものではあるが、しかし、一般的にゴルフボールの外皮が重合体の用途として周知であるということを示すものであるにすぎず、このようなゴルフボールの外皮に重合体が用いられ得るという一般的な命題と存在する多種多様な重合体の中から特定の重合体を選択し、それをゴルフボールの外皮に用いて所期の目的に沿う優れたゴルフボールを得るということとは、次元を異にする問題であるから、たとい、一般的な事項として、ゴルフボールの外皮に重合体を用いるということが周知であつても、特定の重合体を選択限定し、それをゴルフボールの外皮に用いて従来例にはみられない優れたゴルフボールを得ることが容易であるとは直ちにいうことはできない。のみならず、前認定したところから明らかなように、第一引用例、第二引用例及び第四引用例の重合体と第三引用例の重合体とは組成、構造を異にし、しかも、成立に争いのない甲第5号証(第三引用例)によれば、第三引用例に記載の交叉結合されたポリエチレンとブチルゴムの混合物は、加熱によつて流動性が生じない重合体、すなわち熱可塑性を有しない重合体であることが認められるのに対し、第一引用例、第二引用例及び第四引用例の重合体は、熱可塑性を有する重合体であることは前認定のとおりであつて、両者はその作用及び効果をも異にするものといえるから、第三引用例は、何ら第一引用例、第二引用例及び第四引用例記載の重合体のゴルフボールのような被殴打物への使用を示唆するものということができない。更に、第一引用例、第二引用例及び第四引用例に示された該重合体の用途は前認定のとおりであつて、ゴルフボールの外皮材として用いられるものではなく、これらの具体的、かつ、詳細に掲げられた右各引用例記載の重合体の用途をみても、ゴルフボールの外皮材への用途を示唆するものは見当たらない。そして、前掲甲第2号証及び第5号証によれば、ゴルフボールは、抗切断性に優れていることが一つの重要な要素であることが認められ、本願発明に係るゴルフボールは、前認定のとおり優れた抗切断性を有するものであるところ、前掲甲第3号証及び第4号証、第6号証の各1ないし4によると、第一引用例、第二引用例及び第四引用例中には、該重合体の物性として抗切断性に触れた記載は認められず、右各引用例中の該重合体が弾力性、可撓性、強靱性、硬さ、耐衝撃性等に優れている旨の前認定の各記載も該重合体を用いたゴルフボールの抗切断性を示唆するものということはできない。

そうすると、第一引用例、第二引用例及び第四引用例中には、これらに記載の重合体の用途に関し、ゴルフボールへの用途を示唆する記載はなく、右各引用例中の該重合体の諸物性に関する記載も、ゴルフボールの抗切断性を示唆するものではなく、第三引用例は、単に一般的な事項として、ゴルフボールの外皮材に重合体を用いるということが周知であることを示すにとどまるものであるから、従来例のゴルフボールの外皮材に代えて、第一引用例、第二引用例及び第四引用例に記載の重合体をゴルフボールの外皮材に用いることにより前認定のような優れた性能を有する本願発明のゴルフボールに想到することは、当業者の予測の範囲を超えるものであつて、容易になし得るものではないというべきである。被告らは、芯に被覆を施した型の構造を有するゴルフボールの外皮材として各種の合成樹脂を使用すること、及び交叉結合可能な熱可塑性合成樹脂を外皮材に用いてゴルフボール成形し、かつ、交叉結合させることにより、合成樹脂外皮材の抗切断性、耐摩耗性当の強度的性能を改善し得るということは、優先日前における当業者の技術水準であつたから、第一引用例、第二引用例及び第四引用例に記載されたイオン性交叉結合を有する共重合体をゴルフボールの外皮材として使用するようなことは、右技術水準そのままであり、これを越える何等の創意も存在せず、当業者に自明の技術である旨主張し、この点に関し、丙第1号証ないし第8号証(いずれもその成立に争いがなく、優先日前に頒布された刊行物と認められる。)を挙示するところ(なお、右丙号各証は、優先日当時の技術水準を証する補足的資料というべきであるから、本訴において提出し得ない資料ということはできない。)、丙第1号証に示されたゴルフボールの外皮材は、ゴムにポリビニルアセタールを配合したもの、丙第2号証に示されたそれは、エチレンとビニルアルコールの共重合体、丙第3号証に示されたそれは、ある種の変性ポリアミドよりなるもの、丙第4号証に示されたそれは、ゴム状の物質とアルキルアクリル酸のアルキルエステル及びそれと共重合可能な化合物よりなるものであつて、いずれも第一引用例、第二引用例及び第四引用例のイオン性交叉結合を有する重合体とは組成及び構造を全く異にするものであり、丙第5号証には、ポリエチレンを外皮材として成形したゴルフボールに放射線あるいは加速粒子線等を照射して外皮の耐摩耗性及び抗切断性を改善する方法が、丙第6号証には、ポリエチレンで成形されたゴルフボールの外皮をジクミルバーオキサイドの有機溶剤溶液に浸漬し、該溶液から取り出し、次いで該外皮を250file_7.jpgないし350file_8.jpgに加熱することにより、該外皮の耐摩耗性、抗切断性を改善する方法が、丙第7号証には、エチレン、プロピレンの単独合体又はそれらと高級オレフインとの共重合体樹脂、高スチレン含有スチレン―ブタジエン共重合体樹脂、高メタアクリレート含有ブタジエン―アクリレート共重合体樹脂等の熱可塑性樹脂からなるゴルフボール外皮を化学的に硬化させ、次いで放射線で照射して該ゴルフボール外皮の切り傷抵抗性を改善する方法が、丙第8号証には、硬化できるポリウレタンポリマーを半殻状に成形し、これを部分硬化させ、該ポリマーの硬化を阻止するようにして、2つの半殻状を核の両側に置き、非熱塑性状態にまで硬化を行い各半殻状の縁を融着させるようにしてゴルフボールを製造することにより、切り傷抵抗性に優れたゴルフボールを得る方法が示されているものの、右丙第5号証ないし第8号証に記載された合成樹脂も第一引用例、第二引用例及び第四引用例の重合体とは明らかに組成を異にする別種のものであるばかりでなく、交叉結合のさせ方及び態様を異にする(前者が非可逆的であるのに対し後者が可逆的である点で相違することは当事者間に争いがない。)ものであつて、以上各丙号証のものは、いずれも、右各引用例の重合体を示唆するものということはできないから、右丙号各証も前段認定を覆すに足りない。また、被告らは、本願発明のゴルフボールの外皮材の物性は抗切断性及び反弾撥性を含め、第一引用例、第二引用例及び第四引用例記載の共重合体から予測できる程度であり、格別のものでない旨主張するが、本願発明の作用効果は主として外皮材の物性によつてもたらされるものではあるが、本願発明に係るゴルフボールの抗切断性が前認定のとおり優れており、第一引用例、第二引用例及び第四引用例の記載から本願発明に係るゴルフボールの優れた抗切断性を予測し得るものでないことは前認定判断のとおりである以上、被告らの右主張も採用することができない。

そうすると、本願発明は、存在する多種多用な重合体の中から、前示本願発明の要旨にあるとおりの熱変化性金属交叉結合を有するエチレンと不飽和モノカルボン酸との共重合体を限定し、これをゴルフボールの外皮に用いることにより、前認定のような抗切断性等に優れた、満足すべき、使用に適するゴルフボールを得ることに成功したものというべきであつて、本願発明をもつて、第一引用例ないし第四引用例の記載に基づき容易に発明し得たものとした本件審決の認定判断は、その余の点を判断するまでもなく、誤りというべきである。

(結語)

三 以上のとおりであるから、叙上の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法89条及び第94条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 武居二郎 裁判官 川島貴志郎 裁判官杉山伸顕は填補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 武居二郎)

<以下省略>

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